日本は工業力の高さ、地理的優位性から、宇宙開発で世界のリーダーになれる

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千葉工業大学 工学部 機械電子創成工学科 宇宙輸送工学研究室 様

ハイスピードカメラ FASTCAM Nova S16 をご活用頂いている、千葉工業大学 工学部 機械電子創成工学科 宇宙輸送工学研究室 和田豊 教授にインタビューした「日本は工業力の高さ、地理的優位性から、宇宙開発で世界のリーダーになれる」をご紹介します。

目次

宇宙教育に力を入れる千葉工業大学で、燃料の開発からロケットの打ち上げ実験に至るまで幅広く宇宙輸送機の研究に従事されている和田豊教授。「日本は工業力の高さ、地理的優位性から、宇宙開発で世界のリーダーになれる」と言います。和田教授に研究現場でのハイスピードカメラの活用法、宇宙研究の展望について伺いました。

“宇宙で動くものづくり”を支える技術者育成を目指す千葉工業大学の挑戦

千葉工業大学は、低コストで安全性の高いハイブリッドロケットの開発に力を入れており、2025年4月には新たに工学部に「宇宙・半導体工学科」を開設しました(機械電子創成工学科から改組)。日本の宇宙産業を現在の1兆円規模から2040年までに8兆円規模に育てることを目指す国の施策の下、人工衛星や宇宙輸送機の設計、運用を支える高度な技術者を育てることが狙いです。

当研究室では、推進工学と燃焼工学をベースに、ハイブリッドロケットの燃焼機構の解明および燃料の開発、推進システムの提案のほか、実際に小型ロケットの飛翔実験を行うなど基礎から応用まで幅広い研究を行っています。

現在、世界中で開発されているロケットは、火薬を燃料とする「固体燃料ロケット」と液体水素などを燃料とする「液体燃料ロケット」の2種類ですが、ハイブリッドロケットはこの2つのロケットの推進系の構造のメリットを融合させたものです。燃料を固体、酸化剤を液体で搭載し、火薬を使わないので爆発の危険がなく、燃料もポリエチレンやアクリル、酸化剤には酸素、過酸化水素、亜酸化窒素といった身近なもので、構造もシンプルなため、コストが抑えられることが特長です。

私がハイブリッドロケットを知ったのは2005年の東海大学学部生時代、アラスカ大学との共同ロケット打ち上げ実験でのことでした。低コストで安全性の高いハイブリッドロケットなら、より頻繁に打ち上げることができ、宇宙開発がもっと身近なものになる――。そこからハイブリッドロケットの推進力の研究にのめり込んでいくことになります。しかし、燃料のプラスチックを燃やすことが難しく、満足いく推進力が得られずに、長らく実用化には至りませんでした。

宇宙開発を身近なものに。燃焼現象をハイスピードカメラで可視化し、燃えやすいプラスチックを開発

そのため、当研究室ではハイブリッドロケットの燃料開発にも力を入れてきました。燃えにくいプラスチックも、速く溶けて気体化すれば燃えやすくなることに着目し、フォトロンのハイスピードカメラ『FASTCAM Nova S16』で様々な素材の燃焼現象を撮影。2000~3000℃にも達する燃焼時の現象を捉えるため、観察窓付の燃焼器を製作し、その外側に『FASTCAM Nova S16』を設置。燃焼器が耐えうる数秒間に約1万フレームを撮影し、2色温度解析ソフトウェア『Thermera(サーメラ)』を使ってどのくらいの温度で燃えているかを解析します。燃えにくいプラスチックと燃えやすいプラスチックの燃え方の違いを比較するなど検証を繰り返し、数年かけて低融点の熱可塑性樹脂(Low-melting-point thermoplastic、LT)の開発に成功しました。熱で溶けて冷やすと固まるチョコレートのような熱可塑性樹脂と、熱を加えると焼き固まるクッキーのような熱硬化性樹脂の性質を併せ持つプラスチックです。特許も取得し、従来のプラスチックの約3倍のスピードで燃焼させる実験に成功したところです。

様々な燃料の火炎観察

低融点熱可塑性樹脂燃料の燃焼火炎

フォトロンのハイスピードカメラは、学部生時代に研究室にあったことから使い始め、これまでにレンタルも含めてモノクロモデルからハイエンドまで様々な機種を活用してきました。ユーザーインターフェースがわかりやすく、他社製品に比べてデータの伝送時間が短く、エラーも少なかったという実感があります。サポートも充実していて、研究に親身に寄り添ってもらえ、目的に応じた機種や使い方の提案をしていただけたのはありがたかったですね。

産学官連携で日本は宇宙事業で世界一を目指せる

千葉工業大学は、ロケットを宇宙空間まで輸送し、宇宙空間に漂っている宇宙由来の微粒子のサンプル採取することを目標に掲げています。私が主席研究員を兼務する学内の惑星探査研究センターでは、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が開発して打ち上げた小惑星探査機『はやぶさ』に搭載するセンサーを研究しています。

かつては国主導で行われきた宇宙開発事業ですが、イーロン・マスク氏が設立したSpaceXのような欧米の宇宙ベンチャーの活躍に刺激され、日本でも研究機関に加え、民間企業による衛星の開発や衛星サービスの開発が加速しています。日本はロケットの打ち上げ回数こそ少ないものの、自動車産業が盛んで、部品から完成品まで作れる世界でも稀に見る確かな技術力、工業力があります。さらに、四方を海に囲まれた島国であるため、安全管理の面でも他国に比べて打ち上げにも有利です。IT業界はもはや欧米にインフラを抑えられた感がありますが、宇宙領域では今ならまだインフラを抑えることが可能です。

日本では現在、民間衛星のほとんどを海外の大型ロケットにライドシェアする形で打ち上げていますが、日本国内で低コストかつ任意の軌道に、任意のタイミングで打ち上げができる衛星打ち上げロケットが求められています。私が最高技術責任者(CTO)として参画する民間宇宙スタートアップAstroX株式会社(本社:福島県南相馬市)は、気球で成層圏までロケットを放球し、そこからロケットの空中発射を目指しています。

2024年には地上からのロケット打ち上げに成功し、いよいよ気球を使った空中発射実験の段階に入りました。気球をふくらませて、その下にロケットをぶら下げ、地上から20kmの高さところでで燃料に点火して発射させるというものです。ロケットを上空まで輸送するには航空機を使うことが多かったのですが、折り畳んで保管できる気球であれば固定費もかからず、コストが大幅に抑えられます。

低コストで安全にロケット発射事件を頻繁に行うことができるようになれば、宇宙開発はもっと身近になり、常時上空に気球をスタンバイさせることもできるようになるかもしれません。ハイブリッドロケットには複数の現象が混在しているため、詳細な燃焼メカニズムはいまだ解明しきれていません。産学官連携で日本が宇宙事業で世界のリーダーになる日を夢見ながら、燃焼メカニズムの詳細をさらに明らかにするため、今日も燃料の変化や熱分解、さらには酸化剤と燃料の混合・拡散・反応等の精査を続けています。

インタビュー・画像提供:
千葉工業大学 和田 豊 教授

千葉工業大学 和田 豊 教授

千葉工業大学宇宙輸送工学研究室教授。同大学惑星探査研究センター主席研究員。民間宇宙企業スタートアップAstr oX株式会社最高技術責任者(CTO)。子どもの頃から宇宙やロケットに興味を持ち、東海大学工学部航空宇宙学科に進学し、ロケットを設計製作して自ら打ち上げるサークル活動に参加する。卒業後は総合研究大学院大学で博士号(航空宇宙工学)を取得し、秋田大学の助教となり、ロケットや人工衛星の実験を実施したい大学生たちが秋田県能代市に集まり実験を実施する「能代宇宙イベント」の管理・運営を行う。千葉工業大学に異動後、2018年に小型ロケット洋上発射に成功。2023年には成層圏に届く性能を有する小型観測ロケットを開発し洋上発射を実施。ロケット燃料の基礎研究から打ち上げ実証実験まで幅広い研究に従事している。神奈川県出身。


※ この記事は2025年4月取材時の情報です


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