ロケットにおけるターボポンプのキャビテーション研究の重要性 ― 実験 × シミュレーション を通して様々な考察を深める
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室蘭工業大学 航空宇宙機システム研究室 様
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ハイスピードカメラ FASTCAM シリーズをご活用頂いている室蘭工業大学 航空宇宙機システム研究室 航空宇宙機システム研究センター長 内海 政春 教授にインタビューした「ロケットにおけるターボポンプのキャビテーション研究の重要性」の記事をご紹介します。
航空科学技術の未来を拓く ― ロケットエンジンおよび将来宇宙輸送システムの研究
航空宇宙機システム研究センターでは、ロケットエンジンや将来宇宙輸送システムの研究をおこなっています。その中でもロケットエンジンの心臓部といわれているターボポンプの研究はその中心のひとつです。学術的な観点から申し上げると、高速回転における不安定現象(回転軸の振動)や流体不安定現象(キャビテーション)などの不安定現象や動的システムに関係する問題に挑んでいます。その他、エンジンシステムのシミュレーション、最適化設計やモデリング、システム工学や1D-CAE、品質工学や多領域問題など、ものづくりの上流段階での研究開発手法に関する研究もおこなっています。
ロケットにおけるターボポンプのキャビテーション研究の重要性
ロケットエンジンは燃料と酸化剤を燃やして推進力を得ます。これらの燃料・酸化剤を低圧で吸込んで超高圧で燃焼器に供給するターボポンプは、高速回転で運転されるため吸込み部の圧力が下がり液体が気体に相変化し、キャビテーションという気泡が発生します。ターボポンプにはインデューサと呼ばれる回転羽根(ブレード)が存在します。ブレードの枚数は、日本やアメリカ製のものは3枚で構成されており、ヨーロッパ製は4枚、ロシア製は2枚と国によって異なります。同一に設計・製作された羽根が1枚目、2枚目、3枚目と回っている時にキャビテーションができますが、キャビテーションが長く出てくる羽根もあれば、キャビテーションがほとんどつかない羽根もあり、非対称に非定常状態で移り変わります。高回転であればあるほどブレード周囲の圧力変化は大きくなるため、キャビテーションの不安定現象も発生しやすくなります。この羽根にキャビテーションが発生すると、羽根が折れたり、高速で回転している時に軸が振動したりする現象が頻繁に起こり、ロケットの信頼性を損ねるような挙動に繋がります。実際に日本の基幹ロケット「H-IIロケット」にこのキャビテーションが発生して、ロケットが打ち上げ失敗したこともあります。
それ以降、キャビテーションが、ロケットの信頼性を大きく低下させるということで、世界中でこの研究がとても重要な役割を持っています。実際に飛行している時はこのキャビテーションの状態は分からないので、実験室の中でいろいろなセンサーを取り付け、ハイスピードカメラで可視化することで、キャビテーションといわれる状態、挙動を調べています。この実験を担当しているのが本センターの大学院2年生の岸本さんで、我々はJAXA様にある実験設備をお借りして実験させてもらっています。JAXA様との共同研究では、このキャビテーションがどのように発生しているのか、ハイスピードカメラを用いたキャビテーション可視化実験により取得して調べる研究を行っています。
実験×シミュレーションでキャビテーション抑制メカニズムの解明に迫る
キャビテーションを抑制するデバイスの設計指針や抑制メカニズムについても研究を行っています。現状、羽根の外側の形状、ケーシングには微妙に段差がついており、これがキャビテーション不安定現象を抑制します。この段差をつけることは世界標準となっています。この段差がキャビテーション抑制に繋がるという発見は、日本のロケットインデューサの原点と言われる上條先生が航空宇宙技術研究所(現JAXA)にて研究され、1977年に論文で発表されたものです。これは世界中に衝撃を与えました。しかし、この発見もたまたま意図せずに段差をつけたら素晴らしい性能を発揮したというだけで、実はまだその抑制メカニズムの詳細な解明には至っていません。違う場所に段差をつけたり、段差の高さを変えたりなど設計を少し変えただけで、もっとキャビテーションの状態が良くなるのではないか、最適な形状はどういうものなのかを見つけるためにも、なぜこの段差がキャビテーションを抑制できるのかというメカニズムを知ることが大切になってきます。
抑制メカニズム解明においても、目視では確認できないのでハイスピードカメラで撮影します。段差の終わり部分で渦を巻いたりしているような構造があるので、実際にどういう巻き上がり方をしているのか、こういうのを捉えておくとCFD解析(流体解析)をした時に、その流れが本当に正しいのかという検証に使えたりするので、鮮明に現象を捉えるという意味で、ハイスピードカメラはすごく重宝しています。
CFD解析(流体解析)では羽根の周りの圧力を評価しています。通常、泡は圧力が低いところに発生します。沸騰する現象と同じで、温度を高めると泡ができますよね。あれは温度が高くなり沸騰をしているのですが、温度が変わらなくても圧力が下がれば沸騰します。この現象がキャビテーションです。キャビテーションがどういうところで起きるのかというのは圧力を調べれば分かるので、圧力の評価も重要になってきます。シミュレーションの場合、これが正しいという確証がなく、あくまで絶対に正しいのは実験結果です。したがって、実物を写した映像というのは非常に貴重です。このように実験とシミュレーションを組み合わせて様々な考察をしています。
その他、ハイスピードカメラでは液体と気体の二相流の可視化を行い、泡のサイズや泡と液体の流れる速度が同じなのかを調べたり、ハイブリッドロケットの燃焼実験にて、ロケットエンジンの中の燃焼器の燃えている様子を可視化し、燃焼振動の周波数を調べたりしました。
実験データから考察する ― 画像を『意味のあるデータ』にできる便利機能
取得した動画を元にキャビテーションがどう発生しているのかも分析しますが、我々の研究ではこの動画を編集して羽根にキャビテーションがどう付着しているのか、見やすいように羽根を外周部分だけ展開して、軌跡を追っていくような形で、画像を『意味のあるデータ』に編集します。そうすると、羽根のどの位置までキャビテーションが伸びているのか、キャビテーションの長い・短いがどう移り変わっていくのか見られるようになります。
実際に羽根先端部から発生するキャビテーションがどこまで伸びているのか、相対的に見るにはカメラ制御ソフトに付属しているスキップ保存機能を使います。この機能を使うと指定した枚数分画像を間引きすることができ、羽根ごとに画像を探す必要がなく保存ができるので、非常に便利で重宝しています。ケーシングの段差の有無など条件を変えて撮影し、1枚目の羽根、2枚目の羽根、3枚目と羽根ごとに画像を並べることで、立体的な状態の流れを比較することもできますし、羽根が何度回転する度にキャビテーションがどのように付着していくのか見ることもできるので、非常に便利です。
その他、圧力や振動を検出するセンサーから、ハイスピードカメラにトリガを入れられるので、センサーのデータとハイスピードカメラの映像の二つを合わせて可視化することができます。キャビテーションの状態と、実験設備にインデューサが置かれている状況を整合させながら考察することができるので、非常に気に入っています。
気軽な宇宙旅行を実現するために ― 技術開発や研究を進め、宇宙輸送の革新へ繋げる
私たちは人類が気軽に宇宙に行けるような世の中を作りたいと思っています。人類が気軽に宇宙に行くためには、ステーションのような中継地点(基地)をつくる必要があり、基地を建設するためには安全かつ効率的に大量に物資を運び、その費用をどうやって抑えるかが今後の宇宙開発のカギになってきます。そのためには我々が行っている基礎研究によってロケットエンジンの効率や性能が上がり、宇宙用輸送機の大量生産が可能となれば、やがて輸送機の開発が民間で開発できるようになります。たくさんの人の往来が可能となれば基地も大きくなりコストも下がっていきます。こうして宇宙空間に大きな拠点が数多く建設されることにより、気軽に月へ旅行するような時代が近づいてくるものと考えています。今後も技術開発や研究を進め、宇宙輸送を革新したいと思っています。強い志を持った宇宙輸送系スタートアップ企業が日本にも誕生しており、そのような仲間とわくわくする未来を創造していくことが私たちの夢です。
インタビュー:
室蘭工業大学 航空宇宙機システム研究室
航空宇宙機システム研究センター長 内海 政春教授
航空宇宙機システム研究室 内海研究室 岸本 健吾様
※ この記事は2024年2月取材時の情報です
撮影事例
[画像提供]室蘭工業大学 航空宇宙機システム研究室様
ロケットのターボポンプのキャビテーションの可視化
ハイブリッドロケット酸化剤の二相流の可視化
ハイブリッドロケットの燃焼振動の可視化
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