爆発メカニズム解明に迫る|スロー映像×計測データ同期で迅速な解析に

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広島大学 大学院先進理工系科学研究科 機械工学プログラム 反応気体力学研究室 様

爆発メカニズムの解明に迫る

ハイスピードカメラ FASTCAM Mini AX をご活用頂いている
広島大学 大学院先進理工系科学研究科 機械工学プログラム 反応気体力学研究室
金 佑勁 准教授にインタビューした「爆発メカニズム解明に迫る|スロー映像×計測データ同期で迅速な解析に」の記事をご紹介します。

目次

爆発を制御して安全利用につなげる

多岐にわたる燃焼現象の中で、爆発を取り扱っています。特に、ガス爆発や粉じん爆発のメカニズムを明らかにするための研究を手掛けています。近年は爆発現象に関する基礎研究に加え、爆発安全、エネルギー源として利用する分野での応用研究も少しずつ進めています。

爆発現象は、安全や環境の分野、エネルギー利用など様々な応用先があります。基礎研究によって、事故や災害を起こりにくくして安全性を追求・改善する「安全工学」の有益な知見を得るほか、環境分野では、次世代のクリーンエネルギーと期待される水素の燃焼や爆発特性、安全技術について、実験とシミュレーションの両面で研究を進めてきました。さらに、爆発を制御してエネルギー源としての利用を目指す研究にも取り組んでいます。

火という現象は制御すればエネルギー源として有益ですが、制御できなければ事故につながる危険性をはらんでいます。爆発のメカニズムを解明することで事故を減らし、火を上手く利用して安全安心に生活できる社会の実現に貢献したいと考えています。

スロー映像×計測データ同期で迅速な解析に

脱炭素社会の実現に向け、燃やしても二酸化炭素(CO₂)を発生しない水素は、新たなエネルギー源としての利活用が進みつつあります。一方、水素は極めて燃焼危険性の高いガスでもあります。水素社会を実現するには、燃料として誰もが安全安心に使用できることが重要です。そのためには、水素の燃焼や爆発現象を解析して明らかにし、その性質を正しく把握するとともに、安全に対する技術を確立することが必要になります。

そこで、水素ガスの爆発現象を明らかにするプロジェクトに、東京大や東京理科大、韓国の研究機関と協力して取り組みました。水素爆発は火炎の伝播速度が速いので、撮影に関してはフレームレート(カメラが1秒間に撮影できる画像の枚数)が高いほど、撮影される動画が滑らかで高速な動作を正確に捉えることができます。さらに、画角が広くて解像度の高いハイスピードカメラを使うことで、より鮮明に画像を確認することができます。水素ガスの爆発現象をフォトロンのハイスピードカメラで撮影すると、火炎面がしわ状に凸凹している様子がよくわかります。そういった現象が起こる仕組みをはじめ、火炎の成長による挙動や、凸凹の面積が増加するにつれて火炎の伝播速度が増していることなどを説明できる物理理論をリサーチするとともに、現象を数学的なモデルで表して再現する数値解析なども実施しました。

研究を重ねて、火炎が伝播する際の加速現象を考慮した爆風圧を高い精度で予測する手法を確立しました。水素ガスが漏れて爆発した場合、漏れた量によって人や物に危険が及ばない安全な距離を簡単に算出できる数式を導き出しました。これは、たとえば水素ステーションを整備する際に、どのくらいの距離を確保することが必要か、といった場面で役立ちます。

爆発という高速の現象を実際に観察して解析する研究に取り組んでいるため、ハイスピードカメラは実験に欠かせません。フォトロンの製品は性能の高さはもとより、ソフトウェアが充実しているのも特長の一つです。爆発の様子を撮影した画像データと爆風の圧力データを連動させた表示が可能で、時間とともに変化する現象を観測することができるので非常に便利です。以前はそれぞれの測定データをすり合わせるのに労力を要していましたが、フォトロンの担当者に相談して同期できるようになり、迅速な解析の一助となっています。

微小重力環境における研究にも力を発揮

モノが燃えるプロセスの厳密な観察が可能となる、無重力に近い「微小重力環境」下での研究も行っています。粉じん爆発が起きる際の燃焼限界(粉じん濃度の範囲の限界)を明らかにすることを目指し、アカデミックなアプローチで取り組んでいます。粉体に火炎が伝播する様子を撮影して、微小重力下での燃え方を解析します。重力がなく対流に影響されない状態で実験できるため、理想的に火炎が伝播する様子を測定することができます。

実験は、北海道にある50メートル級無重力落下塔で行っています。測定器は、直径500mmの円盤状の板にハイスピードカメラ2台や、粉体の粒子を可視化するためのレーザーやミラーなどを乗せるので、カメラの選定に当たっては性能に加え、サイズや重量も重要な要素でした。その手作り測定器を落下カプセルに入れて50mの高さから落下させて実験を行うため、耐久性も必要です。フォトロンの担当者から助言をもらい、実験に最適なカメラ(FASTCAM Mini AX100)を選択しました。

これまでに70回ほど落下実験を実施しましたが、故障はありません。今後は測定した画像を大幅に拡大して、粒子と火炎の相互作用を確認したい、と思っています。得られた知見が、微小重力下だけでなく、地球上での粉じん爆発にも応用できるかについても検証します。

宇宙空間におけるエネルギー源として金属粉体の利用が検討されており、微小重力環境下で得た知見が役立ちます。月や火星といった天体に存在する金属粉体のエネルギー利用です。たとえば、月にある鉱物の代表的な物質の1つであるアルミナ(酸化アルミニウム)を還元してアルミニウムにして酸素を取り出す。アルミニウムは、水と反応して水素を生じたり酸素と反応して燃焼したりすることでエネルギーを取り出すことができます。火星の大気成分はCO₂が96%で、酸素はわずかしかないため、ロケット燃料の燃焼に必要な酸素の確保などにもつながります。

アルミニウムは発熱量が高い上、燃焼するときにCO₂が発生しないので、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」にも有効です。CO₂を分離・回収して再利用するカーボンリサイクルの技術確立も進んでおり、製鉄所や火力発電所、化学工場などで回収したCO₂を水素と反応させて都市ガスの主成分であるメタン(CH₄)を合成、製造するメタネーションにおいてもアルミニウム粉末の活用が検討されています。

微小重力下での粉じん爆発測定器

このように脱炭素社会の救世主としても注目されるアルミニウムの燃焼現象を解析して得た知見を燃料合成に生かして社会に貢献します。

地球上でも宇宙空間でも役立つ知見を求めて

今後も研究を継続するとともに、より高性能なフォトロンのハイスピードカメラを使った解析にも取り組みたいと考えています。たとえば粉じん爆発の解析において、現在は1ピクセル20マイクロの性能で撮影していますが、粉体がピクセルよりも大きいケースでは詳細な分析が難しくなるので、現在使用しているハイスピードカメラよりもフレールレートや解像度などが高い製品を活用して、さらに細かく撮影して解析する必要が生じます。また、ガス爆発おいても水素と酸素の混合気は、水素と空気の混合気に比べて燃焼速度が約3倍になるため、現象をさらに細かく撮影することが肝要です。

金属粉体をエネルギー源として使う研究では、アルミニウムのほかにも、鉄を使った実験を欧州の大学と検討しています。研究によって得た成果を実用化につなげるための取り組みも進めたいと考えています。

研究室の様子

爆発現象をターゲットに、詳細を明らかにすることで、安全、環境、エネルギーなど、地球上でも宇宙空間でも幅広く役に立つ知見の追求に力を注ぎます。

金先生のご紹介

広島大学 大学院 先進理工系 科学研究科機械工学プログラム 反応気体力学研究室
金佑勁 准教授

東京大学大学院工学系研究科で博士(工学)号を取得。イギリスアルスター大学水素安全研究センターの研究員、広島大学助教を経て、現在 広島大学大学院 先進理工系 科学研究科 機械工学プログラム 准教授。専門は燃焼工学、安全工学で、最近は 水素安全、ガス爆発、粉塵爆発、微小重力燃焼など研究を行っています。


※ この記事は2023年8月取材時の情報です

製品紹介

120×120×94mm、質量1.5kgという軽量コンパクト筐体でありながら、1024×1024ピクセルで6,400コマ/秒、640×480ピクセルで20,000コマ/秒、最高900,000コマ/秒(※AX200)という撮影速度を実現したハイスピードカメラです。モノクロISO 50,000の超高感度性能を持っており、溶接の可視化に最適です。また、波形測定オプションで電圧、電流といった計測波形データを同期させて取得、表示させることも可能です。

FASTCAM Mini AX で撮影した様々な爆発現象

粉じん爆発

水素/酸素の混合気の爆発

水素/空気の混合気の大規模爆発

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