ハイスピードカメラで燃焼の現象を可視化し、サステナブル・エンジンの実現化に挑戦
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千葉大学大学院工学研究院機械工学コース / 次世代モビリティパワーソース研究センター / 株式会社サステナブル・エンジン・リサーチセンター 様
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ハイスピードカメラ FASTCAM シリーズをご活用頂いている、千葉大学大学院工学研究院機械工学コース / 次世代モビリティパワーソース研究センター / 株式会社サステナブル・エンジン・リサーチセンターの 森吉 泰生 教授と窪山 達也 准教授にインタビューした「ハイスピードカメラで燃焼の現象を可視化し、サステナブル・エンジンの実現化に挑戦」をご紹介します。
オール・ジャパンで基礎研究から原因究明まで
当研究室は、千葉大学大学院工学研究院附属の次世代モビリティパワーソース研究センターと一体で、車両から排出される排気物を限りなくゼロにする「ゼロエミッション」化に向け、内燃機関と燃料の研究を中心に様々な研究に取り組んでいます。また、千葉大学発ベンチャー企業の株式会社サステナブル・エンジン・リサーチセンター(以下、SERCと称す)と千葉大学は共同研究講座の契約を結んでおり、互いに連携して教育研究ができる体制になっています。
SERCは自動車用ガソリンエンジンの異常燃焼抑制による熱効率向上をテーマとしたコンソーシアムを主催するとともに、共同研究の推進のために2011年に千葉大学発ベンチャー企業として設立されました。千葉大学とSERCの活動が評価され、2013年に千葉大学が経済産業省拠点形成事業に採択されたことを受け、日本のエンジン・モビリティ研究者がオール・ジャパン体制で基礎研究から実証研究まで幅広く共同研究を行う母体として次世代モビリティパワーソース研究センターが設立されました。現在は、産学官連携をキーワードに、自動車メーカーや部品メーカー、燃料会社などの民間企業との共同研究を通じてハイブリッドシステムや変速機構も含めたパワートレイン制御と適合に関する研究も進めています。
きっかけは2010年頃、ガソリンの異常燃焼(LSPI)が問題となり、自動車業界で対策に向けて、実験とシミュレーションにより共同で現象解明をしようという機運が高まったことでした。欧州(特にドイツ)ではすでに国を挙げて共同で基礎研究を行っていましたが、当時の日本ではまだメーカーごとに基礎研究を行っていました。日本でもドイツに倣い、海外のエンジニアリング会社に依存せず、国内メーカーが共同で基礎研究すべく、大学の研究室と共同研究する流れが生まれました。その後、2014年には自動車会社9社、研究機関2団体の組合員で構成する自動車用内燃機関技術研究組合(AICE:アイス)や、2018年には大手自動車メーカーや部品メーカーから成る自動車用動力伝達技術研究組合(TRAMI:トラミ)といった組合が誕生しています。私共は、こうした技術研究組合にエンジンの課題解決に必要な提案・発信を行うとともに、各メーカーから寄せられる課題に対し、実験・理論解析の双方向から低エミッション化、代替燃料利用の研究について積極的に取り組んでいます。
当研究室の主要研究テーマである「エンジン燃焼試験・解析」では、燃焼状態や筒内現象を視覚的に把握することが欠かせません。コンソーシアムを形成した当初、参加した18企業の一社がフォトロンだった経緯でフォトロンのハイスピードカメラを導入するようになり、以来、異なる機種を複数台、継続的に活用しています。以下、当研究室でフォトロンのハイスピードカメラを使った3件の計測・現象解析例をご紹介します。
可視化エンジンにおける燃焼可視化とガス流動の計測
一定回転しているエンジンでも燃焼の様子はサイクル毎に変動しており、その「燃焼サイクル変動」の抑制が更なる排ガス清浄化や燃費改善に繋がります。燃焼サイクル変動は点火時期における燃焼室内の雰囲気(流動、燃料濃度、温度など)がそれぞれサイクル変動することでその後の燃焼が変動します。それらの変動を計測・解析するために、ペントルーフ部とシリンダライナ部に石英ガラスを用いた可視化エンジンを使い、PIV(粒子画像流速)法やPLIF(レーザ誘起蛍光)法などのレーザ計測を組み合わせ、燃焼とガス流動や燃料濃度を同時に計測することで点火時期前の流動・乱れとその後の燃焼の因果関係を調べています。PIV法+PLIF法+火炎撮影(表紙の写真)の際には、2種類のレーザとイメージ・インテンシファイア、3台のカメラが互いに干渉しないようにマイクロ秒オーダーの緻密な信号制御が必要になります。少しでもフレームがずれると、イメージ・インテンシファイアがレーザで焼けてしまう可能性があるからです。そんな時にフォトロンのランダムリセットトリガとカメラ内遅延調整を駆使することでこの複雑な制御も可能となりました。また、この可視化エンジンでは、ピストン冠面にもサファイアの窓があるため、燃焼室内の様子を横+下から同時に観察することもでき、フォトロンのハイスピードカメラ『FASTCAM Nova S16』と『FASTCAM NovaS20』をサイド/ボトム両方に設置することで、同時に二方向から火炎伝播の様子を撮影することで3次元的に火炎構造を把握することができ、特定の燃焼形態をいくつか見つけることができました。
燃焼サイクル変動はシミュレーションで評価することがまだ難しく、実験的にモデル化できると内燃機関のモデルベース開発に繋げることができ、排ガスや燃費改善だけでなく振動・騒音対策などの課題解決にも役立つと考えており、内燃機関の更なる発展のためにも重要なテーマと言えます。
実機エンジンにおけるエンドスコープを用いた燃焼可視化
実機エンジン内での希薄燃焼過程や異常燃焼の現象を調べるために、燃焼室内にエンドスコープ(管状形状のレンズセット)を挿入して内部を撮影する計測を行っています。希薄燃焼の可視化ではフォトロンのハイスピードカメラ『FASTCAM SA-X2』で点火放電路と火炎の自発光、赤外線ハイスピードカメラ『X6900sc (FLIR) 』にバンドパスフィルタを装着してCO2の波長である4200nm付近を撮影することでCO2分布を捉えることに成功し、通常のカメラでは暗くて見えない希薄燃焼時の火炎伝播を赤外画像から捉えることができました。また、異常燃焼の可視化ではハイスピードカメラ『FASTCAM SA-X』で撮影することで、燃焼室内に飛散したエンジンオイル起因のプレイグニッション(早期着火)の可視化に成功しました。
プレイグニッションのプロセスを複数例撮影した結果、原因は一つではなく、いくつかあることがわかり、可視化が活きた研究となりました。さらに、その要因がエンジンオイルの中の添加剤(カルシウム)にあることが突き止められ、業界内でカルシウムの使用を控えたオイルが出回るようになったのです。
RCEMを用いたHCCI燃焼の可視化/RCEMを用いたディーゼル燃焼の二色法解析
RCEM(急速圧縮膨張装置)は、エンジンのような複雑なバルブの機構を持たず、大きな可視化窓を付けることができ、燃焼前の初期条件や燃料種の設定が容易であることから、基礎的な燃焼を解析するために当研究室では重宝しています。ガソリンをディーゼルエンジンのように自着火させ、CO2削減とクリーンな排気を両立できる燃焼方式のHCCI(予混合圧縮着火)燃焼の可視化や、ディーゼルエンジン燃焼の二色法解析ではフォトロンのハイスピードカメラ『FASTCAM Nova S16』と併せて燃焼の一連のプロセスを観察するのに役立てています。ディーゼル燃焼の二色法解析では、カラーカメラの撮影画像の3原色(RGB)からRとGの輝度値と黒体放射を計測した校正値を用いることで火炎温度などを算出。合成燃料やバイオ燃料に置き換えたときに、煤などの燃焼性生物の生成形態がどう変わってくるのか観察しています。
その他、圧力や振動を検出するセンサーから、ハイスピードカメラにトリガを入れられるので、センサーのデータとハイスピードカメラの映像の二つを合わせて可視化することができます。キャビテーションの状態と、実験設備にインデューサが置かれている状況を整合させながら考察することができるので、非常に気に入っています。
水素の特性を解明し、次世代燃料としての可能性を探る
研究室には複数メーカーのハイスピードカメラがありますが、フォトロンのカメラは長年使ってきていて、制御するための機能やカメラのトリガータイプなどバリエーションが豊富で操作しやすく、イメージした通りの動きをしてくれると感じています。撮影した画像もノイズが少なく鮮明で、複数台のカメラを同時に使うときには同期しやすいのもいいですね。難易度が高い撮影をするときには、サポートの方に撮影のノウハウを教わることができるのも助かっています。
現在、フォトロンのハイスピードカメラで、水素の燃焼特性について研究を進めているところです。次世代燃料としての可能性を期待される水素ですが、空気より軽く、燃焼速度が他の燃料と比べて速く、自着火しにくい(オクタン価が高い)反面、予期しない異常燃焼が発生しやすいという非常に扱いにくい性質があります。従来のガソリンエンジンとの燃焼プロセスの違いなど、中長期的に検証すべき課題は多いですが、特性が解明できれば、水素は次世代燃料として大きな選択肢となるはずです。
インタビュー:森吉 泰生 教授 / 窪山 達也 准教授
千葉大学大学院工学研究院機械工学コース/
次世代モビリティパワーソース研究センター長/
株式会社サステナブル・エンジン・リサーチセンター
森吉 泰生 教授(写真左)
千葉大学大学院工学研究院機械工学コース/
次世代モビリティパワーソース研究センター/
株式会社サステナブル・エンジン・リサーチセンター
窪山 達也 准教授(写真右)
※ この記事は2024年5月取材時の情報です
撮影事例
[画像提供]千葉大学大学院工学研究院機械工学コース /
次世代モビリティパワーソース研究センター /
株式会社サステナブル・エンジン・リサーチセンター様
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