どこを通るかわからない海外からのIP映像伝送の不安を解消 コパ・アメリカの高品質な中継配信を『LCS』活用で実現

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アルゼンチンの連覇で幕を閉じた、南・北中米の覇者を決める南米サッカー連盟主催サッカー大陸選手権「Copa America(以下コパ・アメリカ)」の2024年大会。
今大会は6月21日(金)から7月15日(月)※にかけてアメリカ合衆国(以下米国)で開催、16カ国が参加し14カ所のスタジアムで連日熱戦が繰り広げられた。グループリーグ18試合は日本国内において、サッカー情報Webサイト「サッカーキング」がYouTubeにて試合の中継映像をリアルタイムで配信した。(※:日本時間)
その配信を支えたのがフォトロンの映像伝送ゲートウェイサービス『Photron Live Cloud Service(以下LCS)』。『LCS』はSRTの伝送に必要となるIPアドレス・ポート番号を振り出すクラウドゲートウェイサービスで、国内外のSRT映像伝送を手軽に定額で実現できるという点が特長的なサービスだ。この『LCS』をコパ・アメリカの中継配信で導入した経緯、実際の運用について株式会社エキスプレス(東京都千代田区)技術事業本部 技術営業部 ネクストメディアグループの松川 年之 氏、遠藤 譲 氏からお話を伺った。

ポイント

  • SRTを利用するため伝送品質が高く、予算も加味して豊富な選択肢から機材を選べる
  • 定額プランのため費用がある程度計算でき、伝送時間が延びても追加で購入可能
  • ブラウザサービスのため場所を選ばずオペレーション可能

RTMPの中継配信で手痛い失敗を経験

松川 年之 氏

「2023年の秋、米国で行われたスポーツの試合中継映像をRTMPで受け取りYouTubeにてリアルタイム配信したところ、大失敗をしました。」
松川氏は今回のコパ・アメリカにおける『LCS』を活用、配信に至った経緯について語るうえで欠かせない出来事をこのように語った。
中継時、同社は米国から公衆回線経由で送られてきたRTMPの中継映像を東京リージョンにおかれたクラウドスイッチャーで受け取り、日本国内向けにCGをつけてYouTubeでリアルタイム配信。その際、回線状況が安定せず試合中に断線が頻発、中継映像が止まる状況が続いてしまった。同社はそれまで、海外から公衆回線経由で伝送されてくる映像の配信経験はなかった。汎用プロトコルであるRTMPなら問題ないだろうと思い実施したところ、前述のような配信になったそうだ。
「本配信での手痛い失敗ではありましたが、公衆回線でどこを通ってくるかわからないRTMPではパケットロスが頻発し品質の高い配信ができない、ということが分かったのは大きな収穫でした。」(松川氏)
幸い同社は間を置かず名誉挽回を果たした。23年末にブラジルで行われたスポーツの試合中継において、RTMPとは別のプロトコルにて公衆回線経由で送られてきた映像を前回同様YouTube配信する機会に恵まれたからだ。この時は使用プロトコルに対応したデコーダーを自社で保有していたため質の高い配信ができたそうで、立て続けに公衆回線経由での海外映像伝送の知見を得る案件となった。

高品質かつ機材の選択肢が豊富と認識していたSRT

同社がフォトロンの『LCS』を初めて実運用したのはコパ・アメリカの2カ月前、24年4月。YouTube配信3回目の機会が巡ってきたためだ。今回も米国で行われたスポーツの試合中継で、短期間に2試合行われるものだった。その際、主催者がプロトコルはSRTで渡すと事前に伝達。同プロトコルについて過去2回の海外映像伝送では使用していなかったものの、同社内では別の制作にて利用実績があるため、松川氏、遠藤氏は下記の印象を持っていたという。
「SRTはIP映像伝送においてデファクトスタンダードとなりつつある。またSRTアライアンスの加入企業が多く、SRTに対応したエンコーダー、デコーダーの種類が豊富で選択肢が複数あり、予算に応じて機材を選べる利点も感じていました。」(松川氏)
「SRTは遅延が少ないだけでなく、データに欠損が少なく、映像ノイズが入りにくいため質の高い配信ができるという印象でした。」(遠藤氏)
4月の中継を受注するタイミングでフォトロンから『LCS』の話を聞いていたこともあり、SRTでストリームを受け取るなら『LCS』を使ってみようと導入し運用に至った。松川氏は回想する。
「『LCS』経由で中継のリアルタイム配信を行ったところ、AWSを介したセキュアかつ回線の安定度による伝送映像の質の高さが好印象でした。やはり伝送経路がはっきりしているので配信品質が担保できます。また管理する立場としては、予算管理において費用面がある程度計算できる定額プランという点も利点が大きいシステムだと感じました。」

遠藤 譲 氏

大会2週間前に受注、トラブルを乗り越え連日配信

そして24年6月のコパ・アメリカ。配信業務を受注したのは大会開始の2週間前だったという。今回もSRTでの伝送が主催者側から指定されたため、配信にあたり実績のあった『LCS』が選ばれた。ただ実際の配信まではいくつか乗り越えなければならない課題があった。
一つはSRTがどこのリージョンから配信されるかで、これがなかなか開示されず主催者側とのやり取りに時間がかかった。結果的にロンドンリージョンから配信されることとなり、『LCS』を介してロンドンリージョンから東京リージョンへ伝送、クラウドスイッチャーで受け取りYouTubeへ配信する計画で準備を進めた。しかし配信元リージョンの判明後、今度は伝送されてくる音声コーデックによる問題が発生したと松川氏は話す。
「想定していた“MPEG-AAC”ではなく、クラウドスイッチャーでは受け取れない“MPEG-1 Layer 2”というコーデックで送られてきました。そのためクラウドスイッチャーで受信できず、クラウドでは配信ワークフローを完結できないことがわかり、“MPEG-1 Layer 2”に対応するオンプレミスのデコーダーを急遽用意してYouTubeへリアルタイム配信することとなりました。この音声コーデックの問題解決にあたり、フォトロンの担当者と頻繁にやり取りして対応しましたが、スムーズに連携できたため解決に至り大変助かりました。おかげで無事開幕を迎えられました。」
「なお実際に送られていた映像信号の帯域は放送仕様の25Mbpsであり、音声コーデックによる問題もあったため、一度信号をSDIに変換し、再度エンコーダーで配信に適したビットレートに調整したうえでRTMP化しYouTubeにアップしていました。」(遠藤氏)

コパ・アメリカ2024のワークフロー概要図


またサッカーの国際大会ではおなじみの、グループリーグ第3戦は2試合が同時刻開催となるレギュレーション、今回のコパ・アメリカも同様であった。
「配信も当然2試合同時となるため正系と副系それぞれ2回線ずつ、計4回線必要となります。『LCS』は回線を簡単に増やせるため、そこも利点と感じました。また試合展開によって当初の想定より配信時間が延びることも多々あり、1試合ならまだしも18試合となると相当な時間となります。『LCS』は伝送時間を必要に応じて購入するためフォトロンの担当者に伝送時間の追加を都度依頼していましたが、すぐ対応してくれたので管理がとても楽でした。」(松川氏)
会期中の映像伝送におけるトラブルとしては、1度メインのデコーダーがフリーズしたためサブに切り替えて配信を続行したのと、2度ほど回線の関係で映像に影響が出たものの、それ以外はなかったそうだ。回線についての懸念もクラウド間はAWSを利用することでリージョン間の伝送は保証されるためむしろ安心で、クラウドからおりてくる最後の区間にあたるオンプレデコーダーへの公衆回線における伝送を一番不安視していた。実際ここでのパケットロスが一番多かったとも明かしてくれた。オペレーション面においては配信用のオンプレ機材の監視に社内で1名配置したが、AWS区間の伝送監視は『LCS』がブラウザサービスであるため通勤中の電車内からスマホでストリームの開始・停止を行うことができたり、伝送ステータスを確認できたりするなど、米国開催ということで日本時間では早朝の運用だったが、場所を選ばずオペレーションを行うことができた。2週間ほど配信を続けたこともあり、同社にとってノウハウ蓄積につながる良い機会だったという。

上2点:LCSの操作画面

『LCS』活用でお客様に質の高い映像が提供できると確信

昨年から計4回、公衆回線を活用した海外からの映像伝送、配信を実際に行った松川、遠藤両氏。高品質な配信を行う上でのカギはやはり回線だと断言する。
「今回は音声コーデックの兼ね合いでオンプレデコーダーを急遽利用することになりましたが、可能ならばすべてクラウドで配信まで完結させるのが理想ですね。そうすれば映像はクラウド上で構築して、安定したクラウドネットワーク経由で伝送されてくるため、データの質は担保されます。特に『LCS』はAWSを活用しているため、どこを通って伝送されてくるかわかるのも大きいです。またクラウドで完結すると簡単なシステム構成となり、信号変換によるトラブル等の可能性も減らせます。変換が入るとどうしても機材の相性の問題などによりトラブルの原因となりますので。」(松川氏)
「SRTアライアンスの兼ね合いで機材が入手しやすく、海外でのパートナーも探しやすい。『LCS』活用で安定した回線による高品質な映像伝送を今後も期待できます。」(遠藤氏)
最後に松川氏はこう語った。
「お客様からよく、新たな提案をくださいと言われます。そういった声に対して、今回のコパ・アメリカ配信はクラウドを活用した映像コンテンツの提案につながるよいきっかけになりました。技術職はどうしても物理的な機材があったほうが安心なのですが、『LCS』をYouTube配信に活用したことでクラウドならこんなことができるな、こういう機材があればお客様へのああいった提案につながるな、といったことを肌感覚として掴めました。他のプロダクションでも様々な活用をしているかと思うので、ぜひそういった『LCS』の事例も展開してもらえればよりアイデアの幅が広がります。」

(取材:2024年8月)

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